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車両運動解析で用いられるタイヤモデルについて

タイヤモデルとは

 タイヤモデルは主に複数のパラメータ(スリップ角・スリップ率・キャンバー角・空気圧・垂直荷重)を入力とし、
タイヤが作り出す力またはモーメント(横力・縦力・SAT等)を出力とする関数として表されます。
ただし、入力パラメータには他にも温度や時間軸、タイヤの回転数なども含む場合があります。

 タイヤは異方性を持つ積層複合材料で作られる上、路面状況などによって入力パラメータが多く存在するという、解析が難しいコンポーネントです。しかし、車が動くための力を地面に伝える、唯一のコンポーネントであるため、タイヤモデルの研究は古くからされてきました。しかし、今もなお完璧にタイヤの挙動を表現できるタイヤモデルは存在しません。

タイヤの座標系について

 タイヤの座標系は、日本では主に以下の座標系の定義が用いられます。

  • x軸: タイヤの中心線に平行の向き。通常車両と同じ向きだが、操舵すると座標系も回転。

  • y軸: x軸に垂直で、右手系。

  • z軸: 地面に垂直上向き。キャンバー角がついても回転しない。

ただ、日本以外ではZ軸が下向きになるように定義されるところが多いようです。
Z軸が下向きになるように定義すると,垂直荷重が常にマイナスの値になりちょっと不自然ですが、その分セルフアライニングトルクの定義が自然になります。

タイヤモデルの分類

 タイヤモデルは一般的にempiricalかtheoretical(実験ベースか理論ベースか)という観点で分類がなされ、以下4グループに分けられます。

  • 複雑な物理モデル

  • 純化された物理モデル

  • 半実験同定モデル

  • 実験同定モデル

 この4つの分類・特徴を簡単に説明します。

複雑な物理モデル

 タイヤの設計の際などに使用されるFEM(有限要素法)モデルです。
計算時間に多くの時間がかかるため車両運動解析ではあまり用いられて来ませんでしたが、
計算機性能の向上やABSなどのシステムを正確に解析する必要などから重要性は増しています。

純化された物理モデル

 基本的にタイヤの特性を定数として置くために非線形な特性が表しにくいので,適用範囲は限定されます。
ただ、解析的なアプローチを取れるため、現象の理解や応用に繋がりやすいというメリットがあります。
Fialaモデル、Brushモデルなどが有名で、これらのモデルは以下の本で紹介されています。

半実験同定モデル

 試験機によって得られたデータなどから関数を同定するので、より正確に表現できるモデルです。
しかし、試験の必要があることや試験の条件によって入力パラメータが制限されることなど、デメリットがあります。
Magic Formulaモデルが有名で、多くの車両運動解析やカーシミュレーターで使用されています。
あまり詳しい日本語の文献は見らないので別の記事で簡単に説明しています。

hooked-on-mas.hatenablog.com

実験同定モデル

 実験データを補間することでタイヤモデルを作るカーペットモデルがありますが、今はほとんど研究されていません。

ピュアモデルとコンバインドモデル

ピュアモデル

 x方向の試験結果とy方向の試験結果のどちらかの方向のみを用いて、その方向について同定するためのモデルです。

コンバインドモデル

 摩擦円の事を考えれば納得しやすいと思いますが,縦力と横力の大きさは互いに影響し合って決定されます.
よって、このモデルではx,y両方向のタイヤデータを用いてモデルを同定します。
 そこまで加速しない場合のy方向の運動解析や発進時の解析では、ピュアモデルで済むのですが、
操舵しながら加減速する状況を考える場合はコンバインドモデルが必須となってきます。